福祉の現場のヒヤリハット・事故報告と失敗の科学

オススメ書籍等

ヒヤリハットや事故報告という言葉を耳にすると、
福祉人の私にとっては「なんとなく面倒くさいもの」「嫌なもの」
という印象があります。

このブログをお読みの多くの方も、
私と同じような印象ではないでしょうか。

上司から「ヒヤリハット書いておいてね。」
と言われて、仕方なく書いたり、
怒られるかな・・・とヒヤヒヤしたり、

実地指導で確認されるから、
とりあえず、まとめておこうかな・・・
という人もきっと多いですよね。

正直な話、私も今までそんな感じだったのですが、
マシュー・サイド著 「失敗の科学」を読んでから、
考え方が全く変わりました。
今日はその内容についてお伝えします。

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この本の中に書かれていることを、ひと言で表すとしたら、

「失敗への向き合い方を考えましょう」

ということだと思います。
では、どのように失敗と向き合えば良いのでしょうか?

失敗との向き合い方

みなさんは、「失敗」という言葉を聞いて、どのように感じますか?

・嫌なこと
・できれば起こしたくないこと
・周囲から能力が無いと思われるかも・・・
・できることなら周囲に隠したい
・私に限って、そんなこと(失敗)は起こさない

こんなイメージですかね。

しかし、この本の中では、
全てその逆のように向き合った方が良いと言っています。

・失敗は災厄ではなく好機
・どんどん失敗した方が良い
・失敗する人は、挑戦した人だ、失敗が多いからうまくいく
・失敗をオープンにできる文化を
・誰でも失敗する

個人として組織として、このように向き合うことで、
失敗は学習のチャンス! 進化するための過程
失敗はしてもいい ではなく 欠かせないもの
と捉え、どんどん成長できるのです。

本の中では、ひと昔前の「航空業界」と「医療業界」を比べています。

航空業界は、ブラックボックスと呼ばれるボイスレコーダー、
事故調査委員会、リアルタイムな情報共有等を通じて、
起こった事故をしっかり検証する文化があるが、

医療業界では、失敗を隠したり、検証したりしない、
言い逃れの文化があるので医療事故の数が減らなかったと書かれています。

航空業界が昨今、驚異的に事故率が低いのには、
そのような要因があるのですね。

どんな時に失敗は起きやすいのか?

では、そもそも失敗はどんな時に起きやすいのでしょうか?

① 集中し過ぎた時

「えっ集中してない時じゃないの?」と思う人が多いと思いますが、
実は「集中し過ぎた時」の方が、失敗は起きやすいそうです。

というのも、1つのことに、こだわるあまり、
周りが見えなくなってしまうのです。

すると周囲の変化に気がつけなかったり、
助言が耳に入らなかったりするのですね。

例えば、とある対応が大変な利用者さんに集中し過ぎてしまった結果、
その近くにいた静かな利用者さんの急な体調不良に気づけなかった場合等が、
これにあたりますかね。

1つの事に集中し過ぎず、適度に俯瞰できると良いのでしょう。

② とても強い上下関係がある時

上下関係とは、職場の上司と部下のようなことです。

この場合、「失敗が起きやすい」 というより、
「失敗が起きていても、そのまま指摘できない」
と言った方が良いでしょう。

みなさんにも少なからず経験があると思いますが、
部下である私は、明らかに上司の間違いに気づいているのに、
指摘することができなかったこと、ありますよね。

医療業界では、看護師が医師のミスに気づいていたのに、
看護師は医師の指示に従うものという概念が邪魔をして、
そのまま見過ごした結果、死亡事故に至ってしまうケースもあるようです。

石原さとみさん主演のテレビドラマで、
薬剤師さんが、医師が書いた処方箋の間違いを、
勇気を振り絞って訂正してもらいに行くシーンがありましたが、
ドラマとはいえ、この薬剤師さんみたいなことは、
なかなかできないのでしょう。(少なくとも勇気はいるようです)

この上下関係があって、失敗を指摘できなくならないようにする方法として、
チェックリストをつくり、上下関係のある両者で、
確認していく仕組みづくりが書かれています。

失敗が起きそうな場面を予め想定して、チェックリストを作成しておき、
それを使い、1つずつ確認していくシステムにするのですね。

これなら、立場が下の者が指摘するのではなく、
あくまでチェックリストに基づいて両者で確認しただけなのです。

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チェックリスト関連のオススメ本は → アナタはなぜチェックリストを使わないのか?

③ 強い信念(強く信じたいこと・個人の思い入れ)がある時

例えば、この○○さんという自閉症の利用者さんには、
この支援方法が効果的だ! という強い思い入れがある場合、

仮にそれがなかなかうまくいかなくても、その支援方法を続けてしまうものです。
この支援方法を用いて、うまくいった経験や、うまくいった人の話だけが、
頭の中に残り、失敗した人のことを見たり、聞いたりしないのです。

大昔、体調の悪い人に、瀉血療法(しゃけつりょうほう)という、
血を抜く治療法がありました。
現代では、この治療法が全く効果が無いことは分かっているのですが、
当時は、瀉血して偶然元気になった人がいたので、
長い間、効果のある治療法だとされていたのです。

もちろん、治療効果の無かった人が大勢いたのですが、
それらの人の話は、言葉は悪いですが、死人に口無しですから、
失敗だったことが、見えなくなってしまうのです。

④ 直感や勘に頼っている時

当然なことですが、何のエビデンスにも基づかず、
自分の直感や勘だけに頼ることは、失敗に繋がってしまうことも多いです。

「刑事の勘」 とか 「俺の直感では」
という言葉もよく聞きますが、
あてにならないことも多く、
本の中では、冤罪・誤認逮捕のケースがたくさん書かれていました。

なぜ人は失敗を隠すのか?

そもそも、人はなぜ失敗を隠してしまうのでしょうか?

この心理を理解することが、失敗をオープンにして、
学習できる組織をつくるには欠かせません。
1つずつ確認していきたいと思います。

① 自尊心と職業意識

まず何より、自分が失敗をしたということを認めたり、周囲に知らせることで、
自分の自尊心が傷つけられてしまうのです。

私にも経験がありますが、
「上司の私が、こんな失敗をしたなんて、部下の手前言えない。」
そんな風に思ってしまったことは何度もありました。

ましてや、医者や検事等は、長いこと失敗の少ない、
超エリート街道を歩んできてますから、
自分の失敗を認めるには、相当な葛藤があるのでしょう。

私たち福祉人(福祉職)にも、
「周囲から、福祉のプロとして、そんな失敗するはずないと思われている」
と、考えれば考えるほど、恥ずかしいと感じ、
きっと失敗を隠すことになるのでしょうね。

自分が他者からどう見られているか?を気にし過ぎた場合、
失敗を隠してしまうという選択をしてしまうこともあるのでしょう。

② 非難というプレッシャー

これは分かりやすいですよね。
失敗をすると、周囲から非難されることがあります。

上司に失敗を報告したら、ものすごく怒られたとか、
組織の中で、何かミスが発覚して、
そのミスの原因を検証するより先に、犯人探しがはじまったりしますよね。

誰かしらが何らかの失敗をして、
テレビやSNS等で、叩かれまくっている光景を
見ない日が無いと言っても過言ではないでしょう。

そりゃあ、なかなか自分から正直に失敗を言えないですよね。

③ 努力が判断を鈍らせる

自分が努力すればするほど、(努力していると思えば思うほど)
それに関係する失敗を認められないものです。

コンコルド効果ってご存知ですか?
コンコルドとは、飛行機のコンコルドです。(今は廃止になっています)
ウィキペディア → コンコルド

コンコルドは毎年、毎年大変な開発費がかかったそうです。
開発を成功させて、それらをなんとか回収しようとしたのですが、
なかなか叶わず大赤字続きだったそうです。

そうなると人間の心理として益々止められない。
多くのお金や時間を費やせは費やすほど止めづらくなる心理のことを
コンコルド効果というそうです。
努力すればするほど、失敗(リスク)に鈍感になるのですね。

これは、高い買い物をした時とかも当てはまります。
内心、これを買ったのは失敗だったかな?と思っても、
「いや、決してそんなことはない」と思うようにしたこと、
私はありますね。

④ ウソを隠すのではなく信じ込む

自分に不都合な真実が出てきた時は、
無理やり解釈を変えて、失敗を無かったことにします。

自分の信じていたことへの思いが強ければ強いほど、
この傾向は強いようです。

本の中では、とあるカルト教団の話が紹介されています。
教祖が、12月21日に大洪水が起こると予言しましたが、
そんなものは全く起こりませんでした。

信者たちは、その事実を経て、教祖を信じなくなるかと思いきや、
私たちが必死に祈ったから、大洪水が起きなかったと解釈を変えて、
ますます教団にのめり込んでいったそうです。

自分が強く強く信じていたことが、間違いであったとは、
なかなか認めることができないという1つの例ですよね。

ヒヤリハット・事故報告書にどうのように向きうか? 

①ヒヤリハット・事故報告書をあげやすい雰囲気と仕組み

まず、情報提供がなければ、何も始まらないのです。
ヒヤリやハットした場面や、事故報告が必要な場面に遭遇したら、
まず報告してくれたことに感謝し、
その後も、個人を非難する(犯人さがしやスケープゴート)にするのではなく、
事実を検証しましょう。

また、報告書等の作成も、現場スタッフにとっては面倒なものです。
口頭での報告もありとして、文書に残すのは、管理職や事務担当者が
担う仕組みにしても良いと思います。

②リアルタイムに近い形で情報を共有

これらの情報は、単に報告したら終わりではもちろんありません。
なぜ?どのように起きたヒヤリハットや事故なのか、検証し、
他のスタッフにも情報を共有することが大切です。

トヨタ自動車の工場では、不良品が出た場合には、
その場で一旦作業を止めて原因を探り、原因が分かったら、
すぐに改善し、全体で共有するそうです。

福祉事業所でも、ヒヤリハットや事故の内容によっては、
すぐに報告できるようにし、その場で検証できるたら最高ですね。

情報の共有についても、事によっては、その場で全スタッフにしなければならないことから、
申し送りの時でも良いもの、次回の職員会議でも良いもの等様々でしょうが、
その流れを判断する人を、しっかり設定しても良いでしょう。

③小さな改善を積み重ねる(チェックリストづくりも有効)

集まった情報やデータは、事故防止委員会等でさらに検証します。
改善しなければならないことを改善するのはもちろんですが、
「こうした方が良くなるだろう」ということを、少しずつ改善することも大切です。

また、上記したように、様々な場面を想定して、
チェックリストを作成しても良いでしょう。

ではどんな研修をやりますか?

①人の振り見て我が振り直せ

これだけ「失敗を活かすことが大事だよ」と書いておいてなんですが、
メンタリストDaiGoさんによると、
「人は自分の失敗を活かすことは難しい」という研究結果があるそうです。

これは、上記しましたが、自分の失敗は、どうしても自尊心が邪魔をして、
冷静に向き合いづらいからだそうです。

しかし、裏を返せば、自分の失敗でなければ、しっかり向き合えます。
「人の振り見て我が振り直せ」は理にかなっているのです。

ということは、自分ではない失敗の様々な事例勉強会は、
研修として効果的と言えるでしょう。

②失敗から逆算してみよう!

何か失敗が起きたことを想定して、そこからそれは何が原因なのか?
逆算して検討してみても良いでしょう。

例えば福祉事業所でよくある「誤薬」
「誤薬」の原因となりえることを、みんなで検討してみるのです。

これも仮の事故事例を使いますので、
自尊心が傷つくことがありません。

③失敗を報告する人が素晴らしいという人事評価

「失敗を報告しやすい職場にしよう!」
とスローガンのように日々言っていても、
失敗した人の人事評価が減点されるようでは決して報告は集まりません。

人事評価制度の研修において、
「失敗しても、しっかり報告した人は罰しない。」
ということが、スタッフ全員に浸透させられれば良いですね。

④どんな時に失敗を隠したくなるかを定期的に確認。

繰り返しになりますが、人はどうしても自分の失敗を隠したくなります。
隠していては、組織に成長は無いのです。

・自尊心と職業意識
・非難というプレッシャー
・努力が判断を鈍らせる
・ウソを隠すのではなく信じ込む
ということを、定期的に確認してもいいでしょう。

⑤自分に問題があるかも?と言い合う会

人は絶対に失敗しないということはありません。

「私、失敗しないので」は、あくまでドラマの話です。

そして人は、その失敗を隠しがちです。
だったら、「私がやった〇〇は、もしかしたら失敗だったかも」
と、失敗談だけを気軽に言い合える場を作れば、
自然と、話ができるようになるかもしれませんね。

最後に

私は、この「失敗の科学」を読んで、
ヒヤリハットや事故報告への考え方が変わりました。

人は誰でも失敗する可能性がある。
その失敗にどう向き合い、どう活かすかが重要だということを
改めて認識しました。

そのためには、まず、私も上司の端くれとして、
・犯人探しをするのではない。
・失敗を罰しない。
・私が失敗してもちゃんと指摘してもらえるような関係をつくる
・人を責めるのではなく、システムを改善する
・チェックリストをつくる。つくったらしっかり使う。
・チェックリストも日々更新・改善していく

これらをしっかりやっていきたいと思います。
「失敗の科学」の内容は、このブログの中に
ある程度網羅したと思いますが、
もっと詳しく知りたい方は、ぜひ読んでみてください。

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