もしかして虐待?あなたは(福祉人として)虐待通報できますか?

福祉関連

障害福祉サービスに携わっている人なら誰しも
1度や2度は、「これって虐待じゃない?」という場面を目にしたことありますよね。

そんな時、あなたは市町村に通報できましたか?

ちなみに私はと言うと、
「できた時もあるけど、できなかったことも多い・・・」
というのが実情です(泣)

できなかった理由はと言えば、
・本当に虐待かどうか確証がない(法律では確証が無くても疑いがあれば通報と規定されているが)
・自分が通報したことがバレて、人間関係等がギクシャクしたら嫌だ
という事が多いですかね。

また、職場内だと、通報したことによって、
「その職場に居づらくなったら困るし、上司等から怒られるのでは?」 
と、ためらう人も多いのではないでしょうか?

虐待通報の法的根拠

虐待を発見したら、通報しなきゃいけないと聞いたことはあるけど、
実際にはなかなかできない「虐待通報」

まず最初に、その法的根拠を確認してみましょう。

虐待通報は、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成 23 年法律第 79 号)に規定されています。(以下 「障害者虐待防止法」という」

障害者虐待防止法の第七条、第十六条、第二十二条に次のように規定されています。

養護者による障害者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による障害者虐待(十八歳未満の障害者について行われるものを除く。以下この章において同じ。)を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

2 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

※ 養護者とは、主に保護者や家族等

障害者福祉施設従事者等による障害者虐待に係る通報等)
第十六条 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

2 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待を受けた障害者は、その旨を市町村に届け出ることができる。

3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。

4 障害者福祉施設従事者等は、第一項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

使用者による障害者虐待に係る通報等)
第二十二条 使用者による障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は、速やかに、これを市町村又は都道府県に通報しなければならない。

2 使用者による障害者虐待を受けた障害者は、その旨を市町村又は都道府県に届け出ることができる。

3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項の規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。

4 労働者は、第一項の規定による通報又は第二項の規定による届出(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。)をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

※使用者とは、障害者雇用等で障害者を雇用する会社やその従業員

上記のように、養護者、障害者福祉施設従事者等、使用者から、虐待を受けたと思われる障害者を発見した場合には、速やかに通報しなければならないのです。

ここでのポイントは、「虐待を受けたと思われる」なので、
虐待があったという確証が無くても良いのです。

ということは、上記のように私が通報しなかった理由「確証が無かった」は、
その理由にはならないのですね。

また、当然のことですが、虐待を受けた本人からの通報も認めています。
障害の状態により、自ら通報できないケースも多いですが、
1人ひとりに、「虐待とはどういうことを指すのか」と同時に、
それらの行為があった場合には、通報できるということを伝えていくのも権利擁護の一環だと思います。

そもそもなぜ通報が必要なのか?

まず第1に言えるのが、
「虐待を受けている人が、なかなか自ら声をあげられない」
ということです。

障害の状態から、自ら言葉を発することのできない人もいれば、
面倒を見てもらっているのだから・・・
という立場上の理由から、声をあげられず我慢している人もいるでしょう。

このような場合、虐待は表面化せず、改善されることはありません。

そんな時に虐待の兆候を感じた人が、通報することにより、
好ましくない状況が表面化し、改善に至ることがあるのです。

第2に、養護者が抱え込まないようにするため、養護者のSOSに気づくためです。

私は障害者虐待防止法ができた目的は、
あくまで障害者が安心して生活できるようにするためで
虐待をした人を処罰するためではないと思います。

現に障害者虐待防止法第一条の後半には、次のように規定されています。

(目的)
第一条 この法律は・・・・・養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による障害者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を定めることにより、障害者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって障害者の権利利益の擁護に資することを目的とする。

「養護者の負担の軽減」「養護者に対する支援」という言葉は間違いなくキーワードです。

そこから考えると、
「通報」=「チクる」ではなく、
「通報」=「助ける」(障害者だけでなく養護者も助ける)
ということなのだと思います。

虐待通報した人は守られるはず!

通報は義務だ! 通報はチクることではなく助けること・・・
と分かっていても、それでもなかなかできないのが通報です。

それを見越して障害者虐待防止法の中では、しっかり通報者の保護が規定されています。

第七条
4 労働者は、第一項の規定による通報又は第二項の規定による届出(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。)をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。

第八条 市町村が前条第一項の規定による通報又は次条第一項に規定する届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。
(第十八条等 使用者による虐待にも同様の規定あり)

通報した人は、解雇その他不利益な取扱いは受けないはずですし、
通報を受けた市町村は、誰が通報したのかという名前だけではなく、
通報した人が特定されてしまうような情報も漏らしてはいけないのです。
また、そもそも通報は匿名でもできます。

それにも関わらず、障害福祉施設従事者等が、施設等内で起きている虐待について通報できない理由は次にあると思われます。

障害福祉施設従事者等と虐待通報。あなたはそれでも通報できますか?

障害福祉施設従事者は、施設等内で見かけた虐待について、市町村に通報するより先に、まず施設内の上司や虐待防止責任者に報告することを求められます。

各施設等で作成している虐待対応マニュアル等では、必ずと言っていいほどそう決められているはずです。

マニュアルどおりに報告した結果、上司や虐待防止責任者が、しっかり市町村に通報してくれれば良いのですが、そうならないケースが大半でしょう。

・これぐらいは通報する程じゃない
・虐待した本人はすでに反省している
・利用者さんは自分が虐待されたと思っていない

そんな様々な屁理屈をつけて通報しないのです。

お恥ずかしい話ですが、大昔に私もそう判断したことがありました。
(今になって思えば、本当に心から反省です)

上司や組織が通報しないのに、自分が通報すれば、たとえ匿名で通報しても、誰が通報したのかバレる可能性は高いのです。

これでは通報できないですよね。
ここに、このシステムの問題があるのです。

市町村に通報しなくても、虐待防止委員会等を通じて、自浄作用が働けばまだ良いのですが、あくまで私の感覚では、隠せば隠すほどエスカレートしていくと感じます。

「通報しづらい」となると、私たちにできることは1つです。
(私はそれでも通報した方が良いと思っていますが)

できる限り虐待が起きづらい環境をつくることです。

賛否両論あると思いますが、
私は「誰でも」状況によっては(環境によっては)虐待に関与してしまう可能性があると思っています。

「虐待はやめましょう!」という個人の気持ちの問題だけに対処しても、
虐待は決して無くならないと思っています。

昨今の援助技術と同じように、虐待防止についても、環境に働きかけることが大切だと思っています。
医学モデルだけで考えるのではなく、社会モデルで考えるのです。
利用者さんとスタッフを取り巻く環境を調整するのです。
(これについてはまた後日ブログに書こうと思っています)

コロナ禍の現在は難しいとは思いますが、
様々なことが日ごろからオープンな施設等は、日々支援状況を周囲に通報しているようなものだと思います。これが何よりの対策だと思います。

何か起きた時だけじゃなく、日ごろからオープンに(通報)しておいて、虐待を防止できれば虐待通報の必要は無くなります。(もちろん個人情報保護等、また別の問題が出てきますが)

最後に、「通報」ではなく「相談」というスタンスも

今日も最後に本を1冊紹介させてください。
「相談支援の処箋」という本で、著者は弁護士であり社会福祉士です。
ちなみに現在は、話題の明石市役所に勤務されています。

その業務の中で、様々な相談を受けているのですが、虐待の対応もその1つです。

そんな著者が、市町村への虐待通報について、
「通報」することへのハードルが高いのであれば、
行政に「相談」をしてみてくださいと書いています。
相談なら、なんとんく仰々しさが無くなりますよね。

ただ、1つ私の経験上注意したいのは、緊急性がある場合は、しっかり「通報です」と伝えないと行政が動いてくれないことがあるということです。

この辺のコミュニケーションが難しいんですよね。

虐待への対処についても弁護士・社会福祉士・行政職員として書かれた↓の本、よろしかったらぜひ読んでみてください。

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