「意思決定支援」 ここ最近よく耳にする言葉になりました。
これは日本が2014年に批准した「障害者の権利に関する条約」の影響もありますし、
障害者総合支援法の中で、
「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保される」旨を規定され、
障害者基本法で、
国及び地方公共団体は、障害者の意思決定支援に配慮しつつ・・・
と規定された等をはじめとする様々な要因があるのでしょう。
それらを踏まえ厚生労働省は、2017年に
「障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインについて」
という通知を出したのです。
そこから一気に「意思決定支援」という言葉が登場するようになったと思います。
それはとっても良いことなのですが、
実はこのガイドライン、私個人としてはとっても読みづらいと感じています。
というのも、なんとなく論点があっち行ったり、こっち行ったりするからです。
そこで、このブログでまとめ直してみようと思った次第です。
ガイドラインが出された目的
その目的についてガイドライン本文には次のように書かれています。
事業者がサービス等利用計画や個別支援計画を作成してサービスを提供する際の障害者の意思決定支援についての考え方を整理し、
障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインについて本文より
相談支援や、施設入所支援等の障害福祉サービス(以下「サービス」という。)の現場において意思決定支援がより具体的に行われるための基本的考え方や姿勢、方法、配慮されるべき事項等を整理し、
事業者がサービスを提供する際に必要とされる意思決定支援の枠組みを示し、もって障害者の意思を尊重した質の高いサービスの提供に資することを目的とする。
つまり、
最大の目的は → 障害者の意思を尊重した質の高いサービスの提供
そのために意思決定支援ガイドラインでは、
①サービス等利用計画や個別支援計画を作成してサービスを提供する際の障害者の意思決定支援についての考え方を整理すること
②サービスの現場において意思決定支援がより具体的に行われるための基本的考え方や姿勢、方法、配慮されるべき事項等を整理すること
③サービスを提供する際に必要とされる意思決定支援の枠組みを示すること
以上の3つをしましたよ~ ということらしいのです。
更に言えば、上記で色分けしましたが、
いつ?どこで? → 計画作成時やサービス提供の際や、サービスの現場で
行われる意思決定支援についての、
何を? → 考え方、姿勢、方法、配慮すべき事項
を、示しましたよ~~~~~ という事なのでした。
ここまでも、本当にまどろっこしいのです。
またその他として、
このガイドラインを活用した研修を実施して、
職員の知識や技術が向上することや、
障害福祉サービスの具体的なサービス内容の要素として
「意思決定支援」が含まれる旨を明確化していって欲しいと書かれており、
これらも目的にあたると思います。
では、上記で赤アンダーラインを引いたガイドラインで示された
意思決定支援の考え方、姿勢、方法、配慮すべき事項 を順番に見ていきたいと思います。
意思決定支援の基本的な考え方や姿勢
まずガイドラインでは、
「障害者への支援の原則は自己決定の尊重」と書かれています。
まあ当然でしょうね。
それをもとにして、意思決定支援を次のように定義しています。
意思決定支援とは、自ら意思を決定することに困難を抱える障害者が、
障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインについて本文より
日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように、
可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援し、
本人の意思の確認や意思及び選好を推定し、
支援を尽くしても本人の意思及び選好の推定が困難な場合には、
最後の手段として本人の最善の利益を検討するために
事業者の職員が行う支援の行為及び仕組みをいう。
これまた分かりづらいので少し整理してみましょう。
誰に → 自ら意思を決定することに困難を抱える障害者に
何のために → 日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように
(日常生活、社会生活については後述します)
どのように ↓
① 可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援(支援して自らが意思決定)
② 本人の意思の確認や意思及び選好を推定(意思の推定)
①②の支援を尽くしても本人の意思及び選好の推定が困難な場合には
③ 最後の手段として本人の最善の利益を検討する(最善の利益の検討)
①②③の順にやってくださいね~ と定義してあるようです。
また、職員等に求められる姿勢としては、
職員等の価値観においては不合理と思われる決定でも、他者への権利を侵害しないのであれば、その選択を尊重するよう努める姿勢が求められる。
リスク管理を強調するあまり、本人の意思決定に対して制約的になり過ぎないよう注意することが必要である。
と、書かれています。
職員の価値観を押し付けないでくださいね~
リスクばっかり強調しないでくださいね~
ということですね。
意思決定支援が必要な場面
意思決定支援が必要な場面というのが、上記してあった
日常生活、社会生活という場面になるようです。
日常生活とは、
例えば、食事、衣服の選択、外出、排せつ、整容、入浴等基本的生活習慣に関する場面の他、
複数用意された余暇活動プログラムへの参加を選ぶ等の場面、
日頃から本人の生活に関わる事業者の職員が場面に応じて即応的に行う直接支援の全て。
これら全てに意思決定支援の要素が含まれると書かれています。
社会生活とは、
自宅からグループホームや入所施設等に住まいの場を移す場面や、
入所施設から地域移行してグループホームに住まいを替えたり、
グループホームの生活から一人暮らしを選ぶ場面等。
「これらは意思決定支援の重要な場面として考えられる」
と書かれています。
私からみると、上記をわざわざ分けなくてよいと思うのですが、
「日常生活」の場面での意思決定支援で、
自分の意思を尊重されたという生活経験の積み重ねが、
「社会生活」場面での意思決定に繋がるというニュアンスを伝えたくて、
そうしているのだと思います。
意思決定支援において配慮されるべき事項
①人的・物的環境による影響を配慮
意思決定支援に関わる職員との信頼関係ができているかどうかや、
職員が、本人の意思を尊重しようとする態度で接してくれているかどうかは大きく影響する。また、本人が初めての場所等では、
過度な緊張等から普段どおりの意思決定ができないこともありえる。
と、記されています。全くその通りですね。
②本人の自己決定にとって必要な情報の説明は、本人が理解できるよう工夫する配慮
意思決定する際に欠かせないのは情報です。
その情報を本人が理解できないのでは選択することもできません。
しっかり本人が理解できる形で情報を提供する配慮が必要です。
益々本当にその通りです。
意思決定の方法
意思決定支援の方法について上記した
①自らが意思決定の場合
②意思の推定の場合
③最善の利益を検討する場合
の3つに分けて整理してみたいと思います。
①自らが意思決定の場合
繰り返しになりますが、
まず、必要な情報の説明は、本人が理解できるよう工夫して行うことが重要です。
選択肢を絞った中から選べるようにしたり、
絵カードや具体物を手がかりに選べるようにしたりするなど、
本人の意思確認ができるようなあらゆる工夫をしましょうと書かれています。
本人が意思決定した結果、本人に不利益が及ぶことが考えられる場合は、
意思決定した結果については最大限尊重しつつも、
それに対して生ずるリスクについて、どのようなことが予測できるか考え、
対応について検討しておくことが必要である。とされています。
これには例もあげられていまして、
例えば、疾病による食事制限があるのに制限されている物が食べたい、
生活費がなくなるのも構わず大きな買い物がしたい、
一人で外出することは困難と思われるが、一人で外出がしたい等の場合が考えられる。それらに対しては、食事制限されている食べ物は、どれぐらいなら食べても疾病に影響がないのか、
あるいは疾病に影響がない同種の食べ物が用意できないか、
お金を積み立ててから大きな買い物をすることができないか、
外出の練習をしてから出かけ、
さらに危険が予測される場合は後ろから離れて見守ることで対応することができないか等、
様々な工夫が考えられる。
と、記されています。
また、サービスの利用の選択については、体験利用を活用し経験に基づいて選択ができる方法の活用などが推奨されています。
②意思の推定の場合
本人をよく知る関係者が集まって、本人の日常生活の場面や事業者のサービス提供場面における表情や感情、行動に関する記録などの情報に加え、これまでの生活史、人間関係等様々な情報を把握し、根拠を明確にしながら障害者の意思及び選好を推定する。
と、記されていまして、また、別の箇所には、
本人のこれまでの生活環境や生活史、家族関係、人間関係、嗜好等の情報を把握しておくことが必要である。家族も含めた本人のこれまでの生活の全体像を理解することは、本人の意思を推定するための手がかりとなる。
本人の日常生活における意思表示の方法や表情、感情、行動から読み取れる意思について記録・蓄積し、本人の意思を読み取ったり推定したりする際に根拠を持って行うことが重要である。
と、記されています。
③最善の利益を検討する場合
やはりこの場合が1番難しいと思われます。
(1)メリット・デメリットの検討をする
最善の利益は、複数の選択肢について、本人の立場に立って考えられる。
メリットとデメリットを可能な限り挙げた上で、比較検討することにより導く。
(2)相反する選択肢の両立を検討する
二者択一の選択が求められる場合においても、一見相反する選択肢を両立させることができないか考え、本人の最善の利益を追求する。
例えば、健康上の理由で食事制限が課せられている人も、運動や食材、調理方法、盛り付け等の工夫や見直しにより、可能な限り本人の好みの食事をすることができ、健康上リスクの少ない生活を送ることができないか考える場合などがある。
(3)自由の制限の最小化
住まいの場を選択する場合、選択可能な中から、障害者にとって自由の制限がより少ない方を選択する。また、本人の生命または身体の安全を守るために、本人の最善の利益の観点からやむを得ず行動の自由を制限しなくてはならない場合は、行動の自由を制限するより他に選択肢がないか、制限せざるを得ない場合でも、その程度がより少なくてすむような方法が他にないか慎重に検討し、自由の制限を最小化する。
その場合、本人が理解できるように説明し、本人の納得と同意が得られるように、最大限の努力をすることが求められる。
また次のような記述もあります。
本人が意思決定することが難しい場合でも、「このときのエピソードには、障害者の意思を読み取る上で重要な『様子』が含まれている」という場合がある。
そういった、客観的に整理や説明ができないような「様子」を記録に残し、積み上げていくことは、障害者の意思決定を支援する上で重要な参考資料になる。また、意思決定支援の内容と結果における判断の根拠やそれに基づく支援を行った結果がどうだったかについて記録しておくことが、今後の意思決定支援に役立つため、記録の方法や内容について検討することが有用である。
意思決定支援の枠組み
意思決定支援の枠組みは次の5つの要素から構成されると記されています。
①意思決定支援責任者の配置
②意思決定支援会議の開催
③意思決定の結果を反映したサービス等利用計画・個別支援計画(意思決定支援計画)の作成
④サービスの提供
⑤モニタリングと評価・見直し
なんか面倒くさい構成が書かれていますが、
実は私たちが日ごろやっている個別支援計画やサービス等利用計画等に用いる過程に上乗せしてくださいね~(一緒にやってくださいね~) ということらしいです。
その際には、上記した考え方、基本姿勢、方法、配慮すべき事項を考慮してね~
ということなのでしょうね。
そしてこのガイドラインの中には、この枠組みを用いた具体的な事例が3つ書かれてています。
①重度の知的障害があり、言葉で意思を伝えることが難しい A さんが、生活介護事業所で日中活動を決める事例
②施設入所支援を利用して 15 年になる B さんがグループホームに行くか考える事例
③精神科病院に入院しているCさんが退院について考える事例
気になる方は上記事例を読んでみても良いですが、
日ごろからみなさんが行っていることと大差ない事例だと感じました(笑)
最後に
ここまで読んでくれたみなさんならお気づきだと思いますが、
ガイドラインに書かれている内容は、「その通り!」
というものばかりです。
もっと言えば、大した事は書いていないし、
より具体的な支援方法が書かれているわけでもありません。
(当然なことばかり書かれています)
というのも、このガイドラインが出されたのが2017年
私がこのブログを書いているのが2022年12月
約6年前は、こういうガイドラインを出して、
職員に知識・技術の向上をしてもらわなければならなかったのかもしれません。
今日では、
「ゆるやかな自己決定」や「支援付き意思決定」
という言葉も耳にするようになりました。
また、国連では障害者の権利に関する条約の審査において、
このガイドラインでは良しとされている
「最善の利益を検討」は、本人の意思決定ではなく、代行決定であり、
好ましくないのではないか? との議論もされています。
今後ますます「意思決定支援」は重要になってくるのでしょうね。
約6年前に出されたガイドラインを「そんなの当然じゃん」
と思うように、
意思決支援定自体が、「そんなの当然じゃん」
となる日がやって来ることを強く願っています。
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